第437回 会社が社員の通信記録をモニタリングできるか

 台湾では、憲法に対する司法院大法官の解釈である釈字第603号解釈と釈字第689号解釈によれば、「プライバシーの権利は憲法に明文で列挙されている権利ではないが、人間の尊厳および個人の主体性の保護ならびに完全な人格の形成という点から、また、個人の生活における私的領域が他者に侵害・妨害されないことおよび個人情報の自己コントロールを保障するためにも、プライバシーの権利は不可欠な基本的な権利である」、「いかなる者も全て他者による持続的な注視、監視、監聴、接近等の侵害・妨害を受けない私的活動領域および個人情報の自己決定権を有する」とされています。

 よって、プライバシーの権利は憲法における基本的人権の一つに該当します。

 会社が社員のパソコンおよび通信記録の閲覧、モニタリングを自ら直接行うことはできるのか否かについては、裁判所は下記のような見解が存在します。

閲覧は原則不可

 会社による社員の電子メールの閲覧が社員のプライバシーの権利を侵害するか否かについては、社員の電子メールに対する閲覧方針を会社がはっきりと公表している場合、または社員が閲覧に同意することについての同意書に署名している場合には、社員が自己の電子メールのプライバシーについて一定の合理的な期待を有しているものと推論することは難しいです。

 会社による自己の電子メールの閲覧が企業利益を保護する目的によるものではなく、自己の人間の尊厳を恣意(しい)的に侵害し、比例原則に違反しているため、不適法性を有していることを証明できる場合を除き、権利侵害行為を一律に認定することは難しいです。

事前告知・必要性があれば可能

 上記によると、たとえ社員が勤務場所において会社から支給されたPCを利用するとしても、そのプライバシーの権利の保護に影響は及びません。よって、社員がPCを操作する際の自己のプライバシーの保護について相当の合理的な期待を有する場合、雇用主は自由に介入、閲覧および監視を行うことはできません。

 もっとも、雇用主が事前に告知している場合、労働者から権限の付与を取得している場合、または合理的かつ正当な疑いの理由がある場合、または業務上相当の必要性がある場合には、モニタリングを行うことができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。