第84回 労働争議が発生したが、会社の規則制度の効力に問題があることが判明した?
労働争議事件では、企業が社内の規則制度に従って従業員を処分(解雇を含む)したにもかかわらず、労働仲裁や訴訟に発展し、従業員が規則制度は無効である又は具体的な条項が違法であると主張し、最終的に企業側の敗訴となってしまったケースが少なくありません。このことから分かるように、企業の規則制度は、制定当初からその後の各回の改訂にいたるまで、その内容及び手続がすべて適法かつ有効であることがとりわけ重要です。今期は、法律の規定と司法実務を結びつけて分析を行い、企業において、労働争議発生後の権利保護コストの増大を回避すべく、自社の規則制度における関連問題を入念にチェックすることを提起したいと思います。
一、企業の規則制度の適法性・有効性の認定基準
企業による従業員の解雇又はその他の処分行為が違法であるか否かを判断するには、まず、その根拠とした企業の規則制度の適法性・有効性を審査しなければなりません。多くの企業で敗訴の原因となった問題点はいくつか存在しますが、重要なのは以下の二点です。
1.規則制度がその内容が不適法であるため一部無効とされた
中国の「労働契約法」第4条によれば、使用者は、法に基づき労働規則制度を確立及び整備し、労働者の労働権の享受と労働義務の履行を保障しなければなりません。
また、「労働争議事件の審理における法律適用の問題に関する最高人民法院の解釈(一)」第50条では、使用者が労働契約法第4条の規定に基づき民主的手続により制定する規則制度は、国の法律、行政法規及び政策規定に違反せず、労働者に対し公示されている場合、双方の権利義務を確定する根拠とすることができるとされています。
したがって、企業の規則制度の内容が不適法である場合、関連条項は無効と認定される可能性があり、有効な認定根拠とすることはできず、相応の責任を負う必要があります。例えば、使用者が規則制度の形で労働者の2時間以内の残業について残業代を支給する必要はないとしている場合、裁判所により当該規定は違法かつ合理性を有しないと認定され、それによりその効力を否定され、当該企業は労働者への残業代支払責任を負うよう要求されます。
2.規則制度がその制定・公表の手続に瑕疵が存在するため無効とされた
規則制度の制定・公表にあたり、民主的手続を経なければなりません。具体的にいいいますと、使用者が、労働者の切実な利益に直接かかわる規則制度又は重大事項を制定、改訂又は決定するにあたり、従業員代表大会での又は全従業員による討議を経て、試案及び意見を提示し、労働組合又は従業員代表との間で平等な協議を行ってこれを確定した上で、労働者に対し公示又は告知しなければならないことを指します(「労働契約法」第4条)。
根拠とする「従業員就業規則」等の規則制度について、法に基づき上記の民主的手続が履行されていない場合は、無効と認定される可能性が極めて高く、従業員への処分の合法的な根拠とすることはできず、最終的に企業は従業員に対し違法な解雇又は処分の責任を負うことになります。実務上は、仮に従業員に過失があり、会社の規則制度に著しく違反し、会社がそのために当該従業員との労働契約を解除したとしても、その規則制度につき民主的手続が履行されていないという法律的瑕疵により、労働仲裁・訴訟のいて従業員に違法解雇と主張されてしまいます。
二、企業の規則制度の効力の問題に関する一部の地区の規定
実務上、企業の規則制度が民主的手続の欠如により無効と認定された場合、企業は、「実質的コンプライアンス」の観点から証拠を補充することができ、一部の地区の司法実務では、手続に瑕疵のある制度でもまだ認められる余地があります。いくつかの地区の規定では、規則制度の内容が適法かつ合理的な場合、必要な全ての民主的手続を履行していなくても、一部の民主的手続を経ていれば、有効と認定されることがあります。
例えば、天津市の関連規定では、従業員代表大会若しくは全体従業員での討議、労働組合との協議、又は従業員代表との協議という3つの手続のうち1つを経ていれば民主的な手続が履行されたものとみなすことが明確にされており、深圳市や浙江省でも、「規則制度又は重大事項の内容が法律、行政法規及び政策規定に違反しておらず、明らかに不合理な状況が存在せず、かつ労働者に対し公示又は告知を行っている場合、労働者に異議がないときは、使用者における雇用管理の根拠とすることができる」旨を定めています。
司法実務においては、同種の事件でも、その所在する地区の違い、事件の具体的状況の相違点、さらに裁判官の自由裁量権により、結果の不確実性が高まります。よって、以上の一部の地方の規定は、訴訟・仲裁発生後の救済手段における関連証拠の収集時の参考にとどめてよいと考えます。
三、 既存の規則制度の手続的瑕疵の回避
規則制度について、手続的瑕疵により無効と認定されるリスクがあるとすでに確認されている場合には、必要な手続を補充する手段を取ることをお勧めします。
従業員に処分を与える前に上記補充が間に合わないときは、直接に「労働契約法」の法定条項を根拠とすることを検討してもよいと思います。現在の司法実務からすると、労働契約解除の適法性に関する審査は通常、労働契約解除通知書に明記された内容に限られるはずですので、このときに、法定の根拠との関連性を明確にすることが必要になります。例えば、「労働契約解除通知書」「労働組合通知書」等の文書において、従業員が「労働契約法」第39条に違反したために企業が労働契約を一方的に解除する旨を明記すれば、これに基づいて当該条項は最終的かつ適法な根拠であると主張することができ、これにより内部制度の無効による影響を弱められます。同時に、規則制度の補充について一部の民主的手続を経ていることの証拠を収集し、根拠の裏付けを強化します。
四、提言
1.企業において、前もって内部の規則制度を全面的にチェックし、民主的手続や公示・告知等のプロセスを補完し、企業の規則制度の適法性・有効性を保証し、自身が訴訟に巻き込まれる法的リスクを低減することです。
2.企業は労働契約の解除など従業員への処分を決定する際、慎重に行い、根拠とする内部の規則制度に適法性・有効性があるか否かを事前に確認すべきです。
「労働契約法」の規定によれば、企業が違法な解除と認定された場合、労働者は、労働契約の履行を継続するか、それとも使用者に対し労働契約の違法な解除による賠償金を主張するか、選択する権利を有します。労働者が労働契約の履行継続を要求しない場合、又は労働契約の履行継続の条件が存在しなくなった場合には、使用者は労働者に対し、労働契約の違法な解除による賠償金を支払う必要があり、賠償金は経済補償金の基準の2倍となります。したがって、後から従業員との労働紛争により不要なコストが発生することを回避すべく、企業は、従業員との労働契約を解除する際に、関連規則制度上合法かつ十分な根拠があるかどうかを事前に確認し、慎重に行わなければなりません。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
